公認会計士に新たな役割を付与?金融庁が検討を開始

金融庁が新たに公認会計士に役割を付与すべく検討を開始したようです。

 

 

2018年6月12日付の日本経済新聞電子版で以下の記事が掲載されています。

「決算「不適正」株主に説明を 金融庁が監査法人に要請へ」

 

金融庁は、監査法人が企業の決算書類に「お墨付き」を与えなかった場合、その理由を株主らに詳しく説明するよう求める方針だ。何が問題となり決算の正当性を保証できないのか対外的な情報発信を促す。投資家が疑心暗鬼に陥らず、問題の軽重を判断できるようにする狙い。情報発信しやすいように監査法人の守秘義務を解除する仕組みも検討する。

(後略)

出典:日本経済新聞電子版(2018年6月12日)

記事の中で金融庁幹部の意見として、

投資家からみれば「不適正」という意見だけが出てきても、その理由が分からなければ「投資姿勢をどう判断すればよいのか分からない」(金融庁幹部)。このため無限定適正以外の意見を出す場合、詳しい理由を説明するよう求める方針だ。

出典:日本経済新聞電子版(2018年6月12日)

と紹介していますが、そもそも適正意見以外の意見が表明される場合は、理由などを監査報告書に記載することになっています。

監査報告書上の取り扱いルール

監査報告書書上の取り扱いルールは監査基準委員会報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」において定められています。

この中で、監査人が財務諸表に対して除外事項付意見を表明する場合に、以下の2つを求めています。

  • 除外事項付意見を表明する原因となる事項について記載する「限定意見の根拠」等の区分を設けること
  • 除外事項付意見の根拠区分に、当該虚偽表示による金額的な影響額とそれに関する説明を記載すること

従って、現行ルールでも適正意見以外の意見表明を行う場合は、理由や影響額が監査報告書に記載されています。

東芝の監査報告書

では実際に表明された除外事項付意見を見てみたいと思います。

PwCあらた有限責任監査法人によって表明された東芝の除外事項付意見の「限定付適正意見の根拠」部分が以下です。

限定付適正意見の根拠

会社は、特定の工事契約に関連する損失652,267百万円を、当連結会計年度の連結損益計算書において非継続事業からの非支配持分控除前当期純損失(税効果後)に計上した。

しかし、当該損失の当連結会計年度における会計処理は、米国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠していない。当該損失が適切な期間に計上されていないことによる連結財務諸表に与える影響は重要である。

(中略)

会社は、2016年3月31日現在の工事損失引当金の暫定的な見積りに、すべての利用可能な情報に基づく合理的な仮定を使用していなかった。会社が、工事損失引当金について、すべての利用可能な情報に基づく合理的な仮定を使用して適時かつ適切な見積りを行っていたとすれば、当連結会計年度の連結損益計算書に計上された652,267百万円のうちの相当程度ないしすべての金額は、前連結会計年度に計上されるべきであった。これらの損失は、前連結会計年度及び当連結会計年度の経営成績に質的及び量的に重要な影響を与えるものである。

(中略)

前期決算の当時、すべての利用可能な情報に基づく合理的な仮定を使用して工事損失引当金を計上した場合、注記28.「企業結合」の公正価値の要約表における工事損失引当金の公正価値652,267百万円のうちの相当程度ないしすべての金額は、比較情報である2016年3月31日現在の連結貸借対照表の非継続事業流動負債に計上する必要があった。この結果、当連結会計年度の連結損益計算書の非継続事業からの非支配持分控除前当期純損失(税効果後)、非支配持分控除前当期純損失及び当社株主に帰属する当期純損失はそれぞれ過大に表示されている。

(後略)

出典:株式会社東芝2017年3月期連結財務諸表に対する監査報告書

これを読めば、

  • 六千億円を超える工事損失引当金の全額あるいはそのほとんどが前期に計上すべきであった
  • 前期の連結財務諸表はその分過大に、当期の連結財務諸表はその分過少に利益が計上されている

とPwCあらた有限責任監査法人が判断していることが分かりますので、限定付適正意見を表明した理由としては十分ではないでしょうか。

株主総会での説明

現状のまま議論が進み、監査人が除外事項付意見を表明した場合に株主総会での説明責任が課されたとしても、監査報告書に記載された事項を読み上げるだけになるのではないでしょうか。

だとすれば、監査報告書を読めば十分で、わざわざ監査人に読み上げてもらう必要はありません。

 

だとすれば、金融庁は何を期待して、制度改正に着手し始めたのでしょうか。

 

万が一、株主総会で監査報告書に記載している事項以上の情報提供をさせたり、株主との質疑応答を想定しているなら、金融庁はもっと慎重になるべきと思います。

現行の会計のフレームワークを理解していない株主や投資家に対して、除外事項付意見の理由を正確に理解してもらうことは、困難を極めると思います。

また株主総会での不用意な回答が一人歩きして株主や投資家をかえってミスリードさせてしまう恐れが多分にあるように思います。

 

株主や投資家に分かりやすい情報開示を進めることは健全な資本市場の発展のためには、極めて重要なことと思います。

しかしながら、その方向を誤れば、監査制度そのものの信頼性を揺るがす事態を招くことになりかねない、ということを金融庁は肝に銘じて制度改正を検討すべきだと思います。

コラム
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