監査法人の助言のせいで決算を間違える!?沢井製薬だけの問題ではない

平成30年5月14日にジェネリック薬品で有名な沢井製薬が業績予想修正を行いました。

沢井製薬株式会社の通期業績予想の修正に関するお知らせ(平成30年5月14日)

 

修正理由を見てびっくりしたのですが、なんと同社の会計監査人である有限責任あずさ監査法人の助言が間違っていたことが業績予想の修正理由とされていたのです。

修正内容

沢井製薬では、平成30年2月13日のプレスリリースで、その3か月前に米国で税率引き下げを柱とした税制改革法が成立したことなどを理由として、米国子会社で繰延税金資産の取崩が発生し、当期利益が減少すると公表していました。

沢井製薬株式会社の通期業績予想の修正に関するお知らせ(平成30年2月13日)

 

本件は昨年5月末に沢井製薬が米国で買収した会社の企業結合に関わる会計処理に関連するものだったようです。

 

ところが決算発表の直前の5月13日になって、当該会計処理に誤りがあったことが分かり、法人税等調整額を再計算したところ、当初予定よりも当期利益が12億円増加したというものでした。

二重責任の原則

公認会計士試験の学習をしている方ならご存知だと思いますが、経営者と監査人には、二重責任の原則という大原則があります。

二重責任の原則とは、経営者の財務諸表の作成責任と、監査人の意見表明責任を区別することをいいます。すなわち経営者は、適用される財務報告の枠組みに準拠して、財務諸表を作成する責任を有しており、反対に監査人は、経営者の作成した財務諸表について意見を表明する責任を有しているというものです。

 

今回の沢井製薬のケースは、この二重責任の原則に照らせば、たとえあずさ監査法人が誤った助言を行っていたとしても、誤った業績予想を行った責任は、沢井製薬にあるということになります。

監査人に求められる助言指導機能の発揮

監査人には監査意見を表明するという批判機能の他に、助言指導機能を発揮することも求められています。

すなわち企業が正しい決算を行えるよう、誤った会計処理があれば、誤っていることを指摘するだけではなく、正しい会計処理を助言指導することも求められているのです。

 

今回の問題は、沢井製薬が適用する会計基準を国際会計基準(IFRS)へ変更する過程でおきています。

想像ですが、不慣れなIFRSでの決算を控えていたこともあり、沢井製薬側は米国子会社の買収に伴う会計処理に関して、事前に綿密な相談をあずさ監査法人と行っていたと思われます。

そのような中、あずさ監査法人も当該会計処理に関して、本部の審査部門の判断を仰いでいたものと想像します。

なので最初の誤った会計処理に関する判断についても、単に沢井製薬を担当する監査チームの判断というものではなく、あずさ監査法人の正式な見解であったと思われます。

きっかけはKPMGからの指摘?

ではなぜあずさ監査法人は、米国子会社の買収に関わる会計処理についての見解を変更することになったのでしょうか。

これについては、KPMGからの指摘があったのではないかと想像します。

 

そもそも重要な構成単位に該当する子会社については、個別に監査を実施することになるのですが、子会社が海外子会社の場合は、メンバーファームが監査を担当するケースがほとんどです。

沢井製薬の監査でも米国子会社の監査は、米国KPMGが担当していたと思われます。

 

このような体制の中、事前に沢井製薬から米国子会社の買収に関わる会計処理の相談があったときには、あずさ監査法人は、日本のあずさ監査法人の判断として会計処理を助言指導していたと思われます。

しかしながら米国KPMGが当該子会社の期末監査の中で、会計処理の誤りを指摘したのではないでしょうか。

そしてあずさ監査法人と米国KPMGの協議を経て、あずさ監査法人が誤りを認めるに至ったのではないかと思います。

修正理由として開示するに至った理由

企業が業績予想を修正することは、よくあることです。

しかしながら、監査法人の助言が誤っていたことを理由とする業績修正は、今回のケースが初めてではないでしょうか。

それだけ沢井製薬のあずさ監査法人への怒りが強かったのだと思います。

 

このようなことに巻き込まれてしまった沢井製薬は、本当に気の毒だと思います。

でも適正な決算を行う責任は沢井製薬にあるのであって、同情すべき理由はあるにしても、間違った理由を監査法人のせいにするプレスリリースには違和感があります。

 

一連の経緯を公表するすべは、他にはなさそうなので、このような手段に打って出たのかも知れませんが、適正な決算を行う責任が自分たちにあることについては、どのように考えているのでしょうか。

同様のことはどこでも起こりえる

今回のケースはあずさ監査法人に特有のことではなく、どの監査法人でも同様のことが起こってもおかしくないように思います。

 

これを回避するためには、監査法人においてメンバーファームとの連携をもっと密にすることが必要なのですが、英語を使いこなせる会計士の数はそう多くはありません。

またメンバーファームの関与について、日本の監査法人がどこまでコントロールできるのかも難しい問題だと思います。

 

このようなことはあってはならないことなのですが、今後も同様のことが、あずさ監査法人に限らず他の監査法人でも起こる可能性は十分に考えられます。

 

この問題の本質は根深いところにあるように思います。このようなことが二度と起きないことを望みますが、対応は簡単ではないように思います。

コラム
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