日本には大小さまざまな監査法人が220社以上あります。
その中でもEY新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツ、有限責任あずさ監査法人、PwCあらた有限責任監査法人の四法人が規模の面で抜き出ており、「四大監査法人」といわれています。
この「四大監査法人」が日本の全上場企業の69.3%の監査を実施しています。
このように日本の監査市場を寡占している「四大監査法人」ですが、比較してみると、それぞれの法人には異なった特色が見えてきます。
人員数
(出典:各社HP及び「業務及び財産の状況に関する説明書類」)
区分 | EY新日本 | トーマツ | あずさ | あらた |
社員 | 540人 | 578人 | 603人 | 145人 |
職員 | 5,038人 | 6,082人 | 5,579人 | 2,910人 |
合計 | 5,578人 | 6,660人 | 6,182人 | 3,055人 |
売上高 | 98,941百万円 | 104,703百万円 | 97,121百万円 | 45,622百万円 |
社員一人あたり売上高 | 183百万円/人 | 181百万円/人 | 161百万円/人 | 314百万円/人 |
総人員一人あたり売上高 | 17百万円/人 | 15百万円/人 | 15百万円/人 | 14百万円/人 |
人員数でみるとトーマツが一番人員数の多い監査法人で、あずさ、EY新日本がそれに続いています。
四大監査法人として比べられることが多い、EY新日本、トーマツ、あずさ、あらたですが、職員数でみるとあらたはその半数程度の規模となっています。
またあらたは社員数は他法人の4分の1程度とかなり少ないです。売上高は他法人の半分程度ですので、社員一人当たりの売上高が他法人の2倍程度になっています。
あらたは少ない社員で効率的に報酬を獲得しているといえると思います。それだけ大変ですが、チャンスも多いということだと思います。
また四大監査法人に勤務する公認会計士は10,000人程度と全公認会計士の36%が四大監査法人に勤めています。また登録前の試験合格者に限ってみれば、3,700人程度と全体の63%が四大監査法人に就職しているという状況が伺えます。
売上高
(出典:「業務及び財産の状況に関する説明書類」、単位:百万円)
区分 | EY新日本 | トーマツ | あずさ | あらた |
監査業務 | 83,087 | 74,284 | 76,549 | 23,455 |
非監査業務 | 15,854 | 30,419 | 20,571 | 22,167 |
合計 | 98,941 | 104,703 | 97,121 | 45,622 |
非監査割合 | 16.0% | 29.1% | 21.2% | 48.6% |
東芝事件の反省から監査の品質向上に不退転の覚悟で取り組んでいるEY新日本ですが、監査業務に関する売上高は、監査コストの上昇分をうまく監査報酬に転嫁できたこともあり、増加に転じています。
一方で監査資源を監査業務に多く割いたこともあり、非監査業務の売上高は大きく落としています。
結果、非監査業務も合わせると、売上高は減少しており、1,000億円を割り込む結果となっています。
成長著しいトーマツですが、売上高ではEY新日本を抜いて悲願の四大監査法人の中で一位となっています。
しかしながら内容をよく見てみると、監査業務に関わる売上高は、742億円とEY新日本、あずさに次ぐ三位に留まっており、非監査業務に関わる売上高が他法人に比べて多いことが見てとれます。
これはトーマツが監査業務以外の非監査業務に力を入れていることが原因です。
これまでは監査業務による売上高の比率が高いのが通常だったのですが、今後も新規上場の大幅な増加は見込めませんので、安定した成長のために、各法人とも非監査業務による売上高の増加を目指しています。
その意味では、あらたが先を行っており、トーマツ、あずさがそれに続いていると言えます。
一方で品質問題を抱えるEY新日本は、まずは監査業務の立て直しが急務になっていることがうかがえます。
人件費
(出典:「業務及び財産の状況に関する説明書類」及び「計算書類」)
区分 | EY新日本 | トーマツ | あずさ | あらた |
報酬給与 | 42,675百万円 | 50,387百万円 | 42,547百万円 | 25,500百万円 |
賞与 | 8,546百万円 | 10,329百万円 | 13,368百万円 | |
合計 | 51,221百万円 | 60,716百万円 | 55,915百万円 | 25,500百万円 |
人員数 | 5,578人 | 6,660人 | 6,182人 | 3,055人 |
一人あたり報酬給与等 | 9,183千円 | 9,117千円 | 9,045千円 | 8,347千円 |
社員と職員を合わせた総人員数で人件費を除して一人当たりの報酬給与等の金額を算定してみると、どの法人もおおよそ9百万円前後となり、ほぼ横並びの状況が見てとれます。
あらたが他の法人に比べ若干一人当たり報酬給与等が少なく見えますが、職員の構成比が異なったりすることが原因と考えられるので、待遇はどの法人も横並びと考えた方がよいでしょう。
全体的には、一番構成比率の高いと思われるスタッフの年収が500万円から600万円であることを考えると、マネージャ以上の報酬給与が高く、一人当たり報酬給与を引き上げていることが伺えます。
やはり公認会計士になりさえすれば、高給が約束されるということが見てとれます。
クライアント数
監査業務
(出典:「業務及び財産の状況に関する説明書類」)
区分 | EY新日本 | トーマツ | あずさ | あらた |
金商法・会社法監査 | 955 | 948 | 773 | 141 |
金商法監査 | 55 | 11 | 41 | 51 |
会社法監査 | 1,334 | 1,076 | 1,366 | 434 |
学校法人監査 | 98 | 75 | 49 | 3 |
その他 | 1,447 | 1,228 | 1,329 | 487 |
合計 | 3,889 | 3,338 | 3,558 | 1,116 |
監査業務売上高 | 83,087百万円 | 74,284百万円 | 76,549百万円 | 23,455百万円 |
一社あたり監査報酬 | 21百万円 | 22百万円 | 21百万円 | 21百万円 |
上場会社(金商法・会社法監査+金商法監査)の監査業務を一番引き受けているのは、EY新日本で1,010社となっています。
次いでトーマツの959社、あずさの814社となっています。あらたは192社と他の四大監査法人に比べ上場会社の数は少なくなっています。
監査業務に関する売上高を社数で除した一社あたりの監査報酬は四大監査法人でほぼ横並びですが、トーマツが22百万円で最も高くなっています。
比較的小規模なクライアントが多いと言われていたトーマツですが、監査報酬の引き上げにも成功しているようです。
非監査業務
(出典:「業務及び財産の状況に関する説明書類」)
区分 | EY新日本 | トーマツ | あずさ | あらた |
社数 | 2,799 | 2,940 | 2,120 | 1,241 |
非監査業務売上高 | 15,854百万円 | 30,419百万円 | 20,571百万円 | 22,167百万円 |
一社あたり非監査報酬 | 5百万円 | 10百万円 | 9百万円 | 18百万円 |
非監査業務については、四大監査法人の中でも対応が大きく分かれています。
EY新日本は社数こそ多いですが、一社あたりの報酬は5百万円とあらたの18百万円の3分の1程度の留まっています。
報酬は案件の大きさに比例すると思われますので、EY新日本は比較的小さな案件を取り扱っており、あらたは大きな案件を取り扱っているといえます。
東芝問題で監査の品質向上に取り組んでいるEY新日本は、非監査業務に回せるリソースが限られているということかもしれません。
業種別クライアントの状況等
各監査法人の上場企業の監査シェアは以下のとおりとなっています。
売上高1兆円超企業
売上高1兆円超の企業の152社のシェアは以下のとおりです。
クライアントの入れ替えを積極的に行ってきたあずさが、トップで55社となっています。
トーマツは他と比べて小さなクライアントが多い印象でしたが、その通りの結果となっています。
あらたは上記のグラフでは少なく見えますが、そもそもクライアント数が他の監査法人に比べて少ない中、1兆円超企業の監査を14社も担当しているのは驚きです。
製造業
製造業を営む上場会社は全体で1,508社あるのですが、そのシェアは以下のとおりです。
単純に社数を見ると新日本が365社でトップとなっており、トーマツが358社でそれに続いています。
ただトーマツはクライアント数が最も多い監査法人で、クライアント構成比でみると製造業の会社は決して多くはなく、製造業に強いとは言えないと思います。
むしろあずさの方がクライアント構成比でみると製造業の会社の監査を実施しており、強みを持っているように思います。
商業
商業(卸売業、小売業)に属する上場会社は全体で696社あり、そのシェアは以下のとおりです。
トーマツが193社と他の監査法人と大きく引き離しています。トーマツは商業の会社に強いといってよいでしょう。
銀行業
銀行業を営む上場会社は90社ありますが、そのシェアは以下のとおりです。
新日本が36社と銀行業を営む上場企業の41%の監査を実施しています。銀行業については、新日本に強みがあるようです。
そもそもクライアントが少ないあらたですが、銀行業を営む上場企業の監査は行っていません。
あらたはクライアント数が少ないこともあり、クライアントの業種に偏りが見られます。銀行業の監査も経験してみたいと思っている人は、注意が必要です。
証券業
証券業を営む上場会社は41社ありますが、そのシェアは以下のとおりです。
トーマツ、新日本、あずさはほぼ横並びとなっています。
あらたは1社のみとなっていますが、一方でその他の監査法人が監査を実施している上場証券会社は16社とかなり多く、驚きです。
電力会社
新電力も含めると上場電力会社は14社ですが、そのシェアは以下のとおりです。
新日本が5社でトップ、続いてトーマツの4社となっています。
あらたの2社はいずれも新電力の会社です。
電鉄会社
上場電鉄会社は25社ありますが、そのシェアは以下のとおりです。
上場電鉄会社ではあずさと新日本が強いですね。
反対にあらたは上場電鉄会社の監査を行っていません。
国内拠点
(出典:「業務及び財産の状況に関する説明書類」)
区分 | EY新日本 | トーマツ | あずさ | あらた |
地区事務所 | 16 | 28 | 11 | 4 |
地域オフィス | ー | 9 | 11 | ー |
合計 | 16 | 37 | 22 | 4 |
国内拠点が最も多いのはトーマツの37拠点となっています。次いであずさ、EY新日本と続いています。
EY新日本は2018年5月に国内12拠点を集約したため、大きく数を減らしています。
あらたについては、東京、大阪、名古屋、福岡の4か所に拠点を置くに留まっています。
地元で監査法人に就職したい人は、多くの国内拠点を展開しているトーマツやあずさが選択肢になると思います。
なお地域オフィスは登記簿上の地区事務所ではない事務所のことをいい、比較的小規模な事務所であることが多いです。また場所によっては、常勤の職員がいない地域オフィスもありますが、各拠点によって状況は異なります。
監査法人について、もっと知りたいと思った人は、こちらの記事もどうぞ。
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