公認会計士は弁護士や医師などと並ぶ資格で、経済分野の頂点に位置する国家資格です。
そのため司法試験と並ぶ難易度の高い国家試験と一般的には言われています。
でも実際のところ、どれくらい難易度の高い試験なのでしょうか。
また最近は合格しやすくなっているといわれていますが、本当のところはどうなのでしょうか。
今回は公認会計士試験の難易度のリアルについて書いてみたいと思います。
公認会計士の難易度が高いと言われる理由
そもそもなぜ公認会計士は難易度が高いと言われるのでしょうか。
公認会計士の難易度が高いと言われる理由は以下にあります。
試験科目が多い
公認会計士になるためには短答式試験と論文式試験に合格しなければなりません。
短答式試験は財務会計論・管理会計論・監査論・企業法の4科目で実施され、論文式試験は会計学(財務会計論・管理会計論)、監査論、企業法、租税法と選択科目(経営学、経済学、民法、統計学のうち一科目)の5科目で実施されます。
この試験科目の多さゆえに一般的には難易度が高いと言われています。
試験範囲が広い
公認会計士試験は経済分野における最高峰の資格試験です。
したがって一つ一つの科目の専門性は高くなり、内容も非常に高度になります。
そのため学習範囲も必然的に広くなります。
また単に知識を暗記しただけでは試験に太刀打ちできず、獲得した知識をフル動員して思考する力が問われることになることから、多面的な学習が必要となる試験です。
これらのことが難易度が高いと言われる理由の一つとなっています。
受験生のレベルが高い
日商簿記3級はさまざまなバックグラウンドをもった人たちが受験します。
一方で公認会計士試験の願書提出者のうち87%が大学在学中あるいは大卒以上の学歴を持っています。
このことは受験生たちの母集団のレベルが高いことを意味し、試験に合格するためにはこの中で勝ち上がらなくてはなりません。
そのため一般的には公認会計士は難易度が高いと言われています。
膨大な時間が必要
公認会計士になるためには3,000時間もの学習時間が必要と言われています。
365日毎日6時間を学習時間に充てられたとしてようやく2,190時間、3,000時間もの時間を確保するためには休みなく毎日8時間以上学習時間に充てなければなりません。
このことも公認会計士の難易度が高いと言われる理由の一つになっています。
偏差値から見た難易度
上記のような理由から難易度が高いと言われる公認会計士ですが、具体的にどれくらいの難易度なのでしょうか。
主な国家試験の難易度を偏差値で表したものが以下になります。
資格 | 偏差値 |
国家公務員(総合職) | 77 |
司法試験 | 77 |
公認会計士 | 77 |
医師 | 74 |
不動産鑑定士 | 74 |
税理士 | 73 |
中小企業診断士 | 67 |
日商簿記1級 | 67 |
国家の中枢で働く官僚になるための国家公務員(総合職)や弁護士や裁判官、検事になるために必要な司法試験、そして公認会計士試験の偏差値が77で同スコアで並んでいます。
そして医師や不動産鑑定士が74で続いており、税理士は73となっています。
これらを見る限り公認会計士に難易度は非常に高いように見えてしまいますが、これは事実なのでしょうか。
合格率から見た難易度
続いて公認会計士試験の合格率から難易度を見ていきたいと思います。
そもそも公認会計士試験は、短答式試験と論文式試験の二段階の試験となっていますので、それぞれ見ていきたいと思います。
短答式試験の難易度
短答式試験は12月(第Ⅰ回試験)と5月(第Ⅱ回試験)の年二回実施されています。
ここ数年の短答式試験の合格率は以下のとおりです。
年度 | 合格率 |
令和元年Ⅰ | 16.6% |
令和元年Ⅱ | 12.7% |
令和2年Ⅰ | 15.7% |
令和2年Ⅱ | 12.9% |
令和3年 | 21.6% |
令和4年Ⅰ | 12.1% |
令和4年Ⅱ | 7.9% |
(D/S:各年公認会計士・監査審査会合格者調)
各回の合格率の推移をみると難易度が高いように見えるかもしれませんが、各年度の受験者を名寄せした属人別の合格率をみると、令和元年が22.6%、令和2年が21.8%、令和3年が21.6%、令和4年が15.7%と合格率は20%前後で推移しており、受験者の5人に1人程度が合格していることがうかがえます。
そもそも短答式試験は、論文式試験の受験者を絞り込み採点の精度を上げるための試験なので、論文式試験に進むに足る基礎知識さえ習得していれば合格可能で、難易度はそれほど高いものではありません。
論文式試験の難易度
短答式試験に合格した者と試験免除者が論文式試験に進みます。
その論文式試験の各年度ごとの合格率は以下のとおりです。
年度 | 合格率 |
平成28年 | 35.3% |
平成29年 | 37.2% |
平成30年 | 35.5% |
令和元年 | 35.3% |
令和2年 | 35.9% |
令和3年 | 34.1% |
令和4年 | 35.8% |
(D/S:各年公認会計士・監査審査会合格者調)
公認会計士試験の本丸である論文式試験は難易度が高いイメージを持たれている方が多いと思います。
でも実際のところ毎年の合格率は35%前後で推移しており、論文式試験受験者の3人に1人以上が合格しているのが実情です。
論文式試験の受験者は短答式試験の合格者や免除者なので、その中でさらに勝ち上がるのは簡単なことではありませんが、言われているほど難易度の高いことでもありません。
試験全体の難易度
短答式試験と論文式試験を合わせた全体の合格率の推移は以下のとおりです。
年度 | 合格率 |
平成28年 | 10.8% |
平成29年 | 11.2% |
平成30年 | 11.1% |
令和元年 | 10.7% |
令和2年 | 10.1% |
令和3年 | 9.6% |
令和4年 | 7.7% |
(D/S:各年公認会計士・監査審査会合格者調)
直近の試験では受験者数が増加したこともあり合格率は7.7%まで落ち込んでいます。
ただし受験者全員が合否の土俵に上がれているわけではないことを考えれば、合格率はもっと高いことが予想されます。
事実、願書を提出したにも関わらず試験当日に欠席する受験者も少なくない数いるのが現実です。
公認会計士試験は司法試験と肩を並べる程、難易度の高い試験と言われているのですが、現実は見た目の数字ほど難易度が高い試験ではありません。
学習時間から見た難易度
公認会計士試験に合格するためには、3,000時間もの学習時間が必要と言われています。
一方で他の資格試験に合格するために必要とされる学習時間は以下のように言われています。
資格 | 必要学習時間 |
日商簿記3級 | 100時間 |
日商簿記1級 | 500時間 |
司法書士 | 3,000時間 |
税理士 | 4,000時間 |
司法試験 | 3,000~10,000時間 |
比較的簡単に取得できる日商簿記3級は別として、日商簿記1級で500時間、司法書士で3,000時間、そして税理士では4,000時間もの学習時間が必要といわれています。
また司法試験にいたっては3,000時間から10,000時間もの学習時間が必要と言われています。
合格するためにはそれなりの学習時間が必要になるのは、他の資格でも同様であることを考えれば、公認会計士になることが特別難易度が高いとは言えません。
他の資格の難易度との比較
一般に言われているほど難易度は高くない公認会計士ですが、他の資格の難易度と比べるとどうなのでしょうか。
以下では他の資格の難易度と比べていきたいと思います。
弁護士の難易度との比較
弁護士になるためにはロースクールに行くか、予備試験に合格するかして受験する司法試験に合格する必要があります。
この司法試験の合格率はロースクール出身者で20%程度、予備試験合格者で70%程度となっています。
この数字をみると予備試験ルートで受験すれば司法試験に合格しやすいように見えます。
しかしながら予備試験の合格率は3%程度とかなり低く、予備試験ルートでの司法試験合格はかなりハードルが高いものとなっています。
また予備試験に合格するための学習時間は、最低でも3,000時間以上、人によっては10,000時間は必要と言われており、公認会計士よりも多くの時間を必要としています。
これらのことを考えると、弁護士の資格が最難関の国家資格であると言われていることもうなずけます。
税理士試験の難易度との比較
税理士試験は「会計学に関する科目」と「税法に関する科目」で実施される試験です。
公認会計士試験と共通する試験科目で比較すると、公認会計士試験の方が「質」の面で難易度が高く、税理士試験の方が「量」の面で難易度が高いと言えます。
公認会計士試験の財務会計論と税理士試験の簿記論を比べると、出題範囲は公認会計士試験の方が広く、また思考力や応用力を問う問題が多く出題される傾向があります。
そのため「質」の面では公認会計士試験の方が難易度は高いと言えます。
一方で出題される問題量の多さは税理士試験の簿記論の方が多く、解答のスピードが重視されるため、より多くのトレーニングが必要になります。
そんため「量」の面では税理士試験の方が難易度は高いと言えます。
公認会計士になれば税理士にもなれることを考えると、同じ目指すなら公認会計士の資格が断然お勧めです。
日商簿記検定一級の難易度との比較
日商簿記検定とは日本商工会議所および各地商工会議所が実施する検定試験のうち、簿記に関する技能を検定するもののことをいい、合格の難易度はそれなりに高いといわれています。
ただ合格までの総学習時間はおよそ500時間と言われていますので、公認会計士の3,000時間に比べると短時間での合格が可能です。
一級の検定試験は、商業簿記、工業簿記、会計学、原価計算の各試験科目から出題され、公認会計士試験の財務会計論および管理会計論の出題範囲と重複しています。
ただし公認会計士試験の方が、質・量ともに日商簿記検定以上のものが出題されます。
これらのことから日商簿記検定一級の難易度は公認会計士試験ほど高くはなく、あくまで公認会計士や税理士などの国家資格への登竜門として位置付けられています。
公認会計士は難易度に見合った資格なのか
難易度が高いと言われる公認会計士ですが、公認会計士はその難易度に見合った資格なのでしょうか。
以下では公認会計士は難易度に見合った資格なのか考えてみたいと思います。
高収入が期待できる
公認会計士試験に合格した人のほとんどが、最初は監査法人に入所します。
この監査法人での初年度の年収は550万円以上となっています。
また7~8年監査法人で働くとほとんどの人がマネージャと呼ばれる職位に昇進しているのですが、この頃には年収は1,000万円を超えているのが通常です。
その後は選択したキャリアによって年収はさまざまですが、独立起業して多くのクライアントを抱える事務所を運営するようになれば年収1億円も夢ではありません。
難易度の高いと言われている公認会計士ですが、収入面での見返りは大きく、間違いなく難易度に見合った資格であると言えます。
将来のキャリア選択に幅が生まれる
公認会計士は多様な働き方ができる資格です。
試験に合格した当初こそ経験を積むために合格者の多くが監査法人で勤務しますが、その後はそれぞれの意思で異なるキャリアを選んでいます。
監査を極めたい人はそのまま監査法人で勤務し、いつしか監査報告書にサインすることを夢見てパートナーになるのを目指します。
コンサルティングに興味を持った人はコンサルティング会社等へ転職するなどして、新たなキャリアを目指します。
他にも税務に興味を持った人は税理士法人や会計事務所に転職するなどして、税務の道へ進むことも可能であり、その先で独立開業を目指すことも可能です。
公認会計士になりさえすれば将来のキャリア選択に幅が生まれ多様な働き方が実現できることから、難易度に十分見合った資格であると言えます。
男女格差は皆無
公認会計士に求められるのは知識と経験であり、実力社会で働く公認会計士に男女格差はありません。
昭和の時代に比べてジェンダーギャップは減ったと言われていますが、現実社会にはまだまだ男女格差は残存しています。
でも公認会計士になりさえすれば、少なくとも仕事の上ではジェンダーギャップなど感じることはないはずです。
この点においても公認会計士は難易度に見合った資格である言えます。
公認会計士はモテる
公認会計士になるためには難関試験をクリアしなければならず、簡単なことではありません。
強い意志と目的意識を持たなければ、試験に合格することはできないでしょう。
練習を繰り返して結果を出すプロスポーツ選手や、試行錯誤を繰り返してビジネスを成功へと導く起業家などは、多くの人を惹きつけます。
公認会計士もこれらの人と同じように夢に向かって努力することを重ねた人であり、そんな公認会計士に魅力を感じる異性は少なくありません。
この意味においても公認会計士は難易度に見合った資格だと言えるでしょう。
公認会計士の難易度を突破するための方法
公認会計士は難易度に十分見合った資格なのですが、その難易度を突破するためにはどうすればいいのでしょうか。
以下では公認会計士の難易度を突破するための方法について書きたいと思います。
集中できる環境を作る
公認会計士試験の合格者の84%が学生あるいは無職の人たちであり、学習に集中できる環境にある人たちが合格しているというのが現実です。
公認会計士になるためには、毎日8時間以上の学習時間を確保しなければならず、働きながらこれらの時間を確保するのは簡単なことではありません。
公認会計士の難易度を突破したければ、まずは学習に集中できる環境を作ることが必要です。
学習スタイルを確立する
計算問題で安定的に高得点を得るために最も重要になるのが、下書きです。
例えば連結会計の問題なら時系列ごとに持分の推移を明らかにするような下書きが問題を解く上で必須となります。
また理論問題でも論点の書き漏れがないようにするために、文章構成を下書きして回答を作成します。
このような下書きを安定的に上手に作れるようになることを目指して、学習を進めていかなければならないのですが、そのための学習スタイルを早期に確立することが合格への近道となります。
はじめは戸惑うことも多いものですが、公認会計士の難易度を突破するためには早期に学習スタイルを確立することが必要です。
苦手科目を作らない
公認会計士試験では合計点が合格基準に達していても、得点比率が40%の科目が一科目でもあれば不合格となってしまう「足切り」が設けられている試験です。
したがって学習を進めていく上では、苦手科目を作らないことが必要です。
とはいえ得手不得手は誰にもあることで、学習を進めていくと、ついつい好きな科目のテキストばかり手に取っている自分がいたりします。
苦手科目を作らないためにも、まんべんなく学習を進めるというよりは、学習の進捗状況をきちんと見極めながら学習を進めることが必要となります。
このように学習を進めることによって公認会計士の難易度を突破することが可能となります。
反復練習がカギ
人間は脳内の処理を効率化するために、一度覚えたことでも時間の経過とともに記憶が薄れていくようにできています。
これを防ぐためには、反復練習がカギとなります。
財務会計や管理会計の計算問題は一週間離れてしまうと計算スピードが落ちてしまうと言われています。
理論問題でも論点の学習が半年前に行われたきりであれば、要件をもれなく書き出せというのは無理な話でしょう。
計算問題については、まるで筋トレのように毎日反復して問題を解くことによって計算力を養うことが必要です。
理論問題においても記憶を定着させるように、繰り返し復習を行うようにしなければなりません。
このようにすることによって公認会計士の難易度を突破できるようになります。
メンタルを維持する
公認会計士になるためには最短でも1年半以上の学習期間が必要となり、戦いは長丁場となります。
そのため最初は強い意志をもって学習を進めることができても、答練で点数が悪かったり、難解な問題にぶち当たったりすると「私は合格できないのではないか」と自信を失ってしまう瞬間が必ずやってきます。
このような時に無理に学習を進めても、苦手意識を持ったりして逆効果なこともありますので、うまく気分転換するなどして、メンタルを維持することが重要になってきます。
学習期間が長期になる試験だからこそ、メンタルをうまくコントロールした者が公認会計士の難易度を突破していくのです。
社会人でも難易度を突破できるか
合格者の大半が学生や無職の人たちとなっている公認会計士試験ですが、社会人でも公認会計士の難易度を突破することは可能なのでしょうか。
私は十分可能だと考えています。
実際の試験でも84%が学生あるいは無職ということは、反対に16%の方が働きながら公認会計士試験に合格しているということなのです。
でも働きながら公認会計士の難易度を突破することは、簡単なことではありません。
もし可能ならば仕事を辞めて公認会計士にチャレンジすることも検討すべきだと思います。
どうしても仕事を辞められないなら、以下のことは強く意識しながら学習を進めていななければなりません。
残業を減らす
もし現状毎日残業が必要になるような働き方をしているならば、働き方を見直すことからはじめなければなりません。
公認会計士になるためには毎日仕事が終わってから最低でも4時間、欲を言えば5時間程度の時間を学習に充てなければ話になりません。
必要な学習時間の確保するためには、仕事で残業などしている場合ではありません。
学生以上に効率的に学習する
公認会計士試験は競争試験なのですが、社会人の競争相手は学習時間がたっぷりある学生たちです。
このような競争試験で社会人が勝つためには、学生以上に効率的に学習を進めなければなりません。
とはいえ効率的な学習スタイルを確立することは簡単なことではありません。
学生や無職の人以上に学習ノウハウを有する専門学校を利用することを考えなければなりません。
強い覚悟を持つ
学習を進める中で何度も心が折れそうになる時があると思います。
そんな時でも「絶対に公認会計士になるんだ」という強い覚悟を持ち続けられれば、社会人でも公認会計士になることは決して夢ではありません。
学習時間の面では社会人が学生に勝てるはずがありません。
でもメンタル面では、さまざまな経験をしてきた社会人の方が有利な点も多いと思います。
強い覚悟を持ち続けることができれば、社会人でも公認会計士になることは可能なはずです。
まとめ
もしあなたが勉強嫌いで、これまで大学受験などでまとまった学習経験がないのであれば、公認会計士の難易度を突破することは難しいかもしれません。
でも大学受験で、まとまった学習時間に耐えてきた経験があるならば、公認会計士試験に合格するのは決して夢ではありません。
一日に何時間も机の前に座り、学習することは簡単なことではありません。
途中で何度も心が折れそうになる時もあります。
大学受験の時も同じだったと思います。
その時、その苦痛に耐えることができたあなたなら、公認会計士になれる可能性は十分にあります。
求められる能力は、テキストを一読して一瞬で内容を理解する能力ではありません。
必要なのはテキストを何度も読み返して内容を理解する能力です。
公認会計士になりたいけど、難易度が気になって迷っているならば過去の自分を振り返ってみてください。
過去に大学受験を経験されているなら、公認会計士試験で必要とされる基礎学力は十分に備わっているはずです。
ぜひ公認会計士を目指してみてください。
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