平成18年に公認会計士試験は大改革が行われており、現在の公認会計士試験では科目合格制度が採用されています。
この科目合格制度が採用されてから、忙しくて公認会計士試験の学習に集中できない社会人の方などが、合格しやすくなったと言われています。
では科目合格制度のメリットはどこにあるのでしょうか。
受験生によっては、試験科目を1科目ずつしっかり対策していきたいと考える方もいらっしゃると思います。
科目合格狙いで公認会計士試験に挑戦する方法で公認会計士になれるのか、徹底解説したいと思います。
公認会計士試験の試験科目
公認会計士試験は「短答式試験」と「論文式試験」の2段階で実施されます。
「短答式試験」はマークシート方式による五肢択一式試験として実施さ、試験科目は、財務会計論・管理会計論・監査論・企業法の4科目となっています。
「論文式試験」は、会計学(財務会計論、管理会計論)、監査論、企業法、租税法の必須科目4科目と経営学、経済学、民法、統計学から選択した選択科目1科目の合計5科目で実施されます。
科目合格制度とは
そもそも「論文式試験」では、選択科目を含めた5科目について受験し、一定の成績を収めないと合格することはできません。
ところが論文式試験の試験科目のうちの一部の科目について、公認会計士・監査審査会が相当と認める成績を得た者に対しては、「公認会計士試験論文式試験一部科目免除資格通知書」を交付し、当該科目については、受験願書提出時に免除申請を行うことにより、論文式試験の当該科目の試験の免除を受けることが可能とされています。
この一部試験科目免除制度のことを一般的に科目合格制度と呼んでいます。
例えば前年の「論文式試験」の「監査論」で、公認会計士・監査審査会に相当と認める成績を得た者として認定され、「公認会計士試験論文式試験一部科目免除資格通知書」の交付を受けていれば、翌年の論文式試験で免除申請を行うことによって、「監査論」は受験を免除され、「監査論」を除く4科目で一定の成績を収めれば、公認会計士試験に合格することができるのです。
有効期限は2年
「公認会計士試験論文式試験一部科目免除資格通知書」の効力には有効期限があるので注意が必要です。
具体的には、合格発表の日から起算して2年を経過する日までに行われる論文式試験でしか効力はありません。
「科目合格」という言葉の響きから、税理士試験における科目合格のように効力が一生続くものをイメージされる方もいらっしゃると思いますが、その後2回の論文式試験で当該科目の受験を免除されるにすぎないことに留意が必要です。
合格基準
そんな科目合格ですが、どのような基準で科目合格が決定されているのでしょうか。
科目合格するためには、当該試験科目において相当と認める成績を得た者として公認会計士・監査審査会に認定される必要があるのですが、公認会計士・監査審査会は一定の基準に基づいて科目合格者を決定しています。
その基準は当該年度の「公認会計士試験合格者 (一括合格者)の平均得点比率以上の得点比率」を得たものに対して、一部科目免除資格を与えるというものです。
どういうことか簡単に言うと、当該年度に公認会計士試験に合格した人の上位半分以上に入る成績を収めていれば、当該科目について、一部科目免除資格を与えてもらえるということになります。
合格者の上位半分以上に入るのは簡単ではない
科目合格は公認会計士試験に合格した人たちの中の上位半分以上の成績を収めないと認定されません。
これは科目合格が簡単なことではないことを意味しています。
極めて単純化した例でいうと、願書を提出した1万人のうち3千人が論文式試験に進み、このうち上位1千人が試験に合格するのですが、当該科目で500番以内に入らないと科目合格はもらえないことになります。
公認会計士試験に合格するのも大変なのに、さらに試験に合格した強者の中で、上位半分以上に入ることが、いかにハードルの高いことなのかは、想像してもらえれば分かると思います。
また合格点をとる学習と上位の成績を収める学習では、学習方法が異なりますので、合格点を取りに行く学習をしていても、科目合格はもらえません。
科目合格のせいで不合格?
また科目合格制度を利用したため、不利になるケースも想定されます。
そもそも公認会計士試験の合格基準については、公認会計士・監査審査会が公認会計士試験実施規則で定めており、論文式試験では、以下のように定められています。
52%の得点比率を基準として、公認会計士・監査審査会が相当と認めた得点比率とする。ただし、1科目につき、その得点比率が40%に満たないもののある者は、不合格とすることができる。
出典:公認会計士・監査審査会 公認会計士試験Q&Aより
また免除科目のある者の合格については、以下のように定められています。
論文式試験において免除を受けた試験科目がある場合は、当該免除科目を除いた他の科目の合計得点比率によって合否が判定されます。
出典:公認会計士・監査審査会 公認会計士試験Q&Aより
これがどういうことかというと、仮にある年度の合格基準が得点比率52.0%だった場合に、合否は以下のように判定されることを意味します。
会計学 | 監査論 | 企業法 | 租税法 | 選択科目 | 全科目 | 合否判定 | |
Aさん | 50% | 54% | 50% | 54% | 52% | 52.0% | 合格 |
Bさん | 51% | 52% | 50% | 52% | 51% | 51.2% | 不合格 |
※数字は得点比率(偏差値)
このケースでは全科目トータルで52.0%の得点比率を獲得したAさんは公認会計士試験に合格となります。
このAさんケースにおいて、もし前年に監査論で科目合格しており、監査論について免除申請していたとしたらどうでしょうか。
会計学 | 監査論 | 企業法 | 租税法 | 選択科目 | 全科目 | 合否判定 | |
免除なし | 50% | 54% | 50% | 54% | 52% | 52.0% | 合格 |
免除あり | 50% | 免除 | 50% | 54% | 52% | 51.5% | 不合格 |
得点源だった監査論の底上げ効果がなくなり、他の科目で同じ得点比率を獲得しているにも関わらず、結果は不合格になってしまいます。
本来は受験者に有利なはずの科目合格制度ですが、場合によっては、受験者に不利になってしまうケースもあるのです。
じゃあメリットはどこにあるの?
そんな科目合格制度ですが、もちろんメリットもあります。
それは、合格した科目については、その学習時間を他の科目へ振り向けることができることです。
公認会計士試験の学習は、一度学んで終わりではありません。
頭の中に詰め込んだ知識を、本試験でうまく引っ張り出すためには、継続した努力が必要です。
人間なので、一度完全に覚えたことでも、時間とともに忘れていくものです。
また計算科目などは、問題を解くのを止めてしまうと、みるみる計算力が落ちていくものです。
従ってある程度仕上がった科目でも、その知識を次の本試験まで維持するためには相当の時間が必要になるのですが、科目合格を勝ち取っていれば、その時間を他の科目へ振り向けることが可能です。
これは同じ土俵で戦っている他の受験生を比べると大きなアドバンテージになります。
従って受験経験者が図らずして科目合格を勝ち取った場合は、そのメリット最大限生かして、次の本試験への準備を進めるようにしてください。
合格した科目の学習時間をきちんと他の科目に振り向ければ、上記のAさんのようなことにはならないはずです。
初学者が取るべき戦略は?
初学者の中には、一科目あるいは二科目ずつ合格を狙っていく学習方法を思いつく方もいらっしゃると思いますが、このような学習方法はおすすめしません。
上述のように、科目合格は上位の成績が求められますが、強者どもの中で上位の成績を収めることは簡単ではありません。
また最短で合格を勝ち取るためには、効率的に学習を進める必要があるのですが、学習方法は「上位の成績をとる学習」ではなく「合格点をとる学習」であるべきです。
従って初学者こそ、科目合格狙いで学習するのではなく、あくまで一括合格狙いで学習を進めるべきです。
ビリでも同じ公認会計士
最短ルートで公認会計士になりたければ、成績上位を狙ってはいけません。
トップで合格した人もビリで合格した人も、合格者は全員合格者で公認会計士になることができるのです。
一方で複数科目で科目合格しようとも、一科目でも合格できなければ公認会計士になることはできません。
従って有効期限のある科目合格を狙うより、ビリでも一括合格を狙う方が、初学者にとっては余程現実的です。
ビリでも合格すれば公認会計士です。最短ルートで公認会計士になりたい人は、以下の記事も読んでみてください。
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