公認会計士は、上場企業のあらゆる情報にアクセスしながら監査を進めます。
その過程でさまざまな企業秘密を知ることになるのですが、その秘密を外部に漏らすことがないよう公認会計士には厳格な守秘義務が課されています。
そんな公認会計士の守秘義務ですが、具体的にはどのようなものなのでしょうか。
監査人に強制的な調査権はない
監査人たる公認会計士は、上場会社等の財務諸表監査を行い、適正性について意見を表明します。
中には勘違いされている方もいらっしゃるようですが、公認会計士が行う監査に強制的な調査権等はありません。
あくまで被監査会社の協力のもと、各種監査手続を行っているのです。
そもそも上場会社や大会社は、金融商品取引法や会社法で、公認会計士の監査を受けることが要請されています。
従って監査を受けている被監査会社も、監査に協力して、監査人に意見表明してもらわなければなりません。
そのため監査人は強制的な調査権などに頼らなくても、被監査会社の協力を得て、監査を行うことができるのです。
守秘義務は監査制度の根幹を支える義務
監査人たる公認会計士が行う監査では、さまざまな企業情報にアクセスします。
例えば、取締役会や経営会議など、重要な会議の議事録などにも目を通し、関連する会計処理が適切に行われていることを確かめたりします。
トヨタやソニー、三菱商事などグローバル展開している超有名企業の監査でも、経営に関する超極秘情報が記載されている議事録の確認は行われています。
このように被監査会社の超極秘情報にもアクセスする公認会計士ですが、そこで知りえた情報を簡単に他へ漏らすようだと、どうでしょうか。
そんなことをされたら、企業は不足の損害を被りますので、監査人たる公認会計士に重要な情報を提供しなくなってしまいます。
このような事態を避けるために、公認会計士には、重い守秘義務が課されているのです。
従って、公認会計士に課される守秘義務は、監査制度の今回を支える義務のひとつだと言えるのです。
意図しない情報漏洩
少し前まで監査法人に勤める公認会計士のPCの紛失が、世間を騒がせることもありました。
監査の過程では、監査人は顧客情報などを入手することもありますが、データが入ったPCが盗難にあったり、電車やタクシーに置き忘れて紛失したりして、情報漏洩にもつながりかねない事態が、しばしば発生していました。
でも最近はこの手のことがニュースになることも少なくなりました。
これはPCの紛失がなくなったからでしょうか?
そうではありません。数千人の社員、職員が働いている監査法人で、どれだけPCの扱いに注意させても、毎年一定数の紛失等は発生してしまうものだと思います。
では毎年一定数のPCの紛失が発生しているのに、どうして騒がれなくなったのでしょうか。
これはPCを紛失しても、企業情報が漏洩しないシンクライアントという仕組みを監査法人が採用したからです。
シンクライアントとは、ユーザーが使用する端末の機能は必要最小限にとどめ、サーバー側で処理を行う仕組みのことを言います。
シンクライアントでは監査人が入手した企業情報は、即座に監査法人のデータセンターにあるサーバーに保存され、一切の情報がPCに残らないようになっています。
一時的なデーターの保存はもちろん可能なのですが、PCの電源を落とすと、一時的に保存されているデータはすべて消去される仕組みになっています。
このような仕組みを多額のコストを掛けて、監査法人では取り入れたのですが、これは情報漏洩があると、監査制度の根幹を揺るがしかねないという危機感からの対応だったように思います。
インサイダー情報
このように被監査会社の企業情報にアクセスする公認会計士ですが、中には株価に影響を及ぼすような重要な情報に接することも少なくありません。
しかしながら、そもそも監査人たる公認会計士は、被監査会社の株式を保有することはできませんので、このような情報を知りえたからといっても、それをお金に換えるようなことはできません。
うまくやっている人もいるのではないかと思う方もいらっしゃると思いますが、最近の証券取引等監視委員会のチェックは厳しいことから、割に合わないことだということは公認会計士ならよく理解しています。
従って被監査会社の皆さんは、安心して監査人に情報を提示してもらっても問題ありません。
しかし監査人たる公認会計士が接するインサイダー情報は、株価が上がる情報よりも株価が下がる情報の方が多い気がします。
これには予想される収益は、確実になるまで繰り越し、予想される損失は保守的に損失計上することを求める現在の会計の考え方が影響しているのかもしれません。
つまり将来予測される損失に対して、監査人はより注意を払っていることが影響しているように思います。
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