平成17年以前の旧公認会計士試験では、免除制度は一部で認められているに過ぎませんでした。
ところが、平成18年の試験制度の大改正で、社会人をはじめとした多能な人材が受験しやすいように、免除制度も拡大されています。
そんな免除制度なのですが、利用することが常に試験で有利に働くとは限りません。
場合によっては、あえて免除制度を利用しないほうが良いこともあります。
この記事を読めば、公認会計士試験における免除制度のすべてを理解できます。
最短ルートで公認会計士になりたい人は、免除制度をきちんと理解して、うまく利用するようにしてください。
短答式試験の免除制度
現行試験制度では、以下の要件を満たした受験生に対して、短答式試験の全部または一部の科目が免除されます。
全部免除
短答式試験の全部が免除されるためには、以下の要件を満たす必要があります。
【短答式試験の全部免除要件】
- 大学等において3年以上商学に属する科目の教授若しくは准教授の職にあった者又は商学に属する科目に関する研究により博士の学位を授与された者
- 大学等において3年以上法律学に属する科目の教授若しくは准教授の職にあった者又は法律学に属する科目に関する研究により博士の学位を授与された者
- 高等試験本試験合格者
- 司法試験合格者及び旧司法試験第2次試験合格者
(「公認会計士試験受験案内」より)
上記1、2ですが、商学あるいは法律学に関する大学教授、准教授、博士学位取得者については、短答式試験の全部が免除されています。
また3の「高等試験本試験合格者」とは、戦前における国家公務員試験合格者のことを指しており、ほとんどの方には関係ありません。
さらに4の司法試験合格者等についても、短答式試験の全部が免除されています。
この中で注目すべきは、博士学位取得者です。
商学あるいは法律学に関する博士の学位を取得した者は、短答式試験の全部を免除されることに加え、後述する論文式試験においても、一部科目が免除されることになります。
したがって博士学位取得者は、公認会計士試験を優位に進めることができます。
ただし短答式試験の免除を狙って博士課程に進むことはおすすめしません。所詮は短答式試験の免除であり、論文式試験は受験しなければならないことを考えると、回り道がすぎるためです。
科目免除
以下の要件を満たす者は、短答式試験の一部科目の受験が免除されます。
【短答式試験の科目免除要件】
- 税理士となる資格を有する者又は税理士試験の試験科目のうち簿記論及び財務諸表論の2科目について基準(満点の60パーセント)以上の成績を得た者(基準以上の成績を得たものとみなされる者を含む。)
- 会計専門職大学院において、(a)簿記、財務諸表その他の財務会計に属する科目に関する研究(b)原価計算その他の管理会計に属する科目に関する研究(c)監査論その他の監査に属する科目に関する研究により、上記(a)に規定する科目を10単位以上、(b)及び(c)に規定する科目をそれぞれ6単位以上履修し、かつ、上記(a)から(c)の各号に規定する科目を合計で28単位以上履修した上で修士(専門職)の学位を授与された者
- 金融商品取引法に規定する上場会社等、会社法に規定する大会社、国、地方公共団体その他の内閣府令で定める法人において会計又は監査に関する事務又は業務に従事した期間が通算して7年以上である者
(「公認会計士試験受験案内」より)
まず1ですが、税理士資格保有者及び税理士試験の科目合格者(簿記及び財務諸表論)については、短答式試験の財務会計論の受験が免除されます。
ただし税理士試験の科目合格者については、簿記論及び財務諸表論の2科目合格した者と1科目合格かつ1科目免除の者が該当するとされており、2科目ともに免除された者は該当しませんので、注意が必要です。
また2の会計大学院(アカウンティングスクール)において、一定の単位を取得し、修士学位を取得した者については、短答式試験において、財務会計論、管理会計論及び監査論の3科目が免除され、企業法のみの受験となります。
さらに上場企業や会社法上の大会社等で経理等の業務を7年以上経験した者についても、短答式試験の財務会計論の受験が免除されます。
論文式試験における免除制度
以下の要件を満たす者は、論文式試験においても一部科目の受験が免除されます。
【論文式試験における免除要件】
- 大学等において3年以上商学に属する科目の教授若しくは准教授の職にあった者又は商学に属する科目に関する研究により博士の学位を授与された者
- 大学等において3年以上法律学に属する科目の教授若しくは准教授の職にあった者又は法律学に属する科目に関する研究により博士の学位を授与された者
- 高等試験本試験合格者
- 司法試験合格者
- 旧司法試験第2次試験合格者
- 大学等において3年以上経済学に属する科目の教授若しくは准教授の職にあった者又は経済学に属する科目に関する研究により博士の学位を授与された者
- 不動産鑑定士試験合格者及び旧鑑定評価法の規定による不動産鑑定士試験第2次試験合格者
- 税理士となる資格を有する者
- 企業会計の基準の設定、原価計算の統一その他の企業会計制度の整備改善に関する事務又は業務に従事した者で会計学に関し公認会計士となろうとする者に必要な学識及び応用能力を有すると公認会計士・監査審査会が認定した者
- 監査基準の設定その他の監査制度の整備改善に関する事務又は業務に従事した者で監査論に関し公認会計士となろうとする者に必要な学識及び応用能力を有すると公認会計士・監査審査会が認定した者
- 旧公認会計士試験第2次試験論文式試験において、免除を受けた科目がある者
(「公認会計士試験受験案内」より)
まず1の商学に関する大学教授、准教授、博士学位取得者については、論文式試験において会計学及び経営学が、2の法律学に関する大学教授、准教授、博士学位取得者については、企業法及び民法の受験が免除されます。さらに6の経済学に関する大学教授、准教授、博士学位取得者については、経済学の受験が免除されます。
戦前の国家公務員試験における合格者である3の高等試験本試験合格者については、高等試験本試験において受験した科目(当該科目が商法である場合は、企業法)が免除されています。
4の司法試験合格者については、企業法及び民法の受験が免除されており、5の旧司法試験第2次試験合格者についても旧司法試験の第2次試験において受験した科目(受験した科目が商法又は会計学である場合は、企業法又は会計学)の受験が免除されます。
また7の不動産鑑定士試験合格者及び旧鑑定評価法の規定による不動産鑑定士試験第2次試験合格者については、選択科目である経済学または民法の受験が免除されます。
8の税理士となる資格を有する者については、租税法の受験が免除されます。ただし、弁護士は、税理士法に規定された「税理士となる資格を有する者」に該当するのですが、公認会計士試験の本号による科目免除の対象には含まれませんので、注意が必要です。
さらに9、10のように会計や監査の基準設定等に関する業務に従事した者で、公認会計士・監査審査会が認定した者についても、会計学あるいは監査論の受験が免除されます。
そして11の旧公認会計士試験第2次試験論文式試験において、免除を受けた科目がある者についても、その免除を受けたことにある科目について、受験が免除されます。
一部免除が常に有利とは限らない
上述のように現行試験では、短答式試験、論文式試験それぞれで、広く免除が認められています。
しかしながら免除が受験生に必ずしも有利に働くとは限らないことから、該当者は免除制度を利用するかどうか、慎重に判断すべきです。
短答式試験の一部免除を利用すべき人
短答式試験の試験科目は、論文式試験の試験科目と重複しており、短答式試験のみで出題される試験科目というものはありません。
そのため短答式試験の全部あるいは一部が免除されたとしても、総学習時間が大きく減少することはないため、短答式試験免除者のアドバンテージは小さいと考えるべきです。
それでも少なからず短答式試験対策には時間を割かれることになるため、博士学位取得者や司法試験合格者など、短答式試験の全部が免除される場合は、積極的に免除制度を利用すべきです。
また会計大学院において修士学位を取得した人も、短答式試験は企業法のみに注力できるため、免除制度を積極的に利用した方が有利に受験を進めることができます。
ただし税理士資格保有者や経理実務経験者など、短答式試験の財務会計論のみ免除される場合は、免除制度を利用するかどうかは、慎重に判断すべきです。
理由は、以下の「論文式試験の一部免除の落とし穴」に書いていることが、短答式試験でも起こりえるためであり、税理士資格保有者や経理実務経験者は、免除制度を利用するかどうか、慎重に判断することが必要です。
論文式試験の一部免除を利用すべき人
公認会計士試験では、総得点を基準に判定がなされ、科目免除がある場合は、当該免除科目を除いた他の試験科目の合計得点の比率によって合否が判定されることになります。
そのため、もし免除科目が得点源となり、総得点の底上げが期待できるなら、免除制度を利用せず、あえて当該科目を受験することも検討すべきです。
以下のように、仮にある年度の合格基準が得点比率52.0%だった場合に、得点源で全体を底上げしていた会計学について免除制度を利用すると、その他の科目の得点は全く同じでも、不合格となってしまいます。
適用の有無 | 会計学 | 監査論 | 企業法 | 租税法 | 経営学 | 合計 | 合否 |
免除なし | 55% | 53% | 50% | 51% | 52% | 52.2% | 合格 |
免除あり | ー | 53% | 50% | 51% | 52% | 51.5% | 不合格 |
上記のように免除科目が得点源となりえる場合は、あえて免除制度は利用せず、当該科目を受験したほうが有利となるケースもありえます。
一方で得意科目であっても、得点力を維持するためには、それなりの学習時間が必要です。
反対に免除制度を利用すれば、得点力維持のための学習時間は不要となり、その時間を他の科目の学習時間に割り振ることができ、他の科目での得点アップが期待できます。
したがって免除制度を利用するかどうかは、これらを比較衡量して決定すべきです。
免除申請手続の方法
短答式試験あるいは論文式試験において、免除制度を利用する場合は、受験願書の提出に先立ち免除申請を行う必要があります。
免除申請は、通年で受け付けてもらえますので、受験願書の提出に間に合うように、余裕をもって行うようにしましょう。
提出された免除申請については、公認会計士・監査審査会において、審査が行われます。
審査の結果、免除要件を満たしている場合は、公認会計士試験免除通知書が交付されますので、受験願書提出時に、交付された免除通知書の写しを添付するようにしてください。
なお免除通知書に有効期限はなく、一度通知書を受領すれば、再度申請する必要はありませんので、通知書は大切に保管するようにしてください。
申請は、免除申請書に必要書類を添付して行い、郵送あるいはインターネットで提出することが可能です。
なお免除申請手続の詳細については、公認会計士・監査審査会のサイトに掲載されていますので、公認会計士・監査審査会のサイトを確認するようにしてください。
無試験で公認会計士になれるのか
難関試験と言われている公認会計士試験ですが、無試験で公認会計士になる方法はあるのでしょうか。
理論上は、以下の方法によって無試験で公認会計士になることが可能です。
- 商学に属する科目に関する研究により博士の学位を取得→短答式試験の全部免除、論文式試験の会計学及び経営学の免除
- 法律学(税法系)に属する科目に関する研究により博士の学位を取得→論文式試験の企業法の免除、そして税理士試験においてダブルマスターで税理士資格取得、税理士資格を有する者として論文式試験の租税法の免除
上記で論文式試験の監査論を除くすべての科目が免除されます。
そして監査基準の設定その他の監査制度の整備改善に関する事務又は業務に従事したことがあり、公認会計士・監査審査会がその実績を認定してくれれば、残った論文式試験の監査論も免除されることになります。
ただし商学及び法律学(税法系)の二分野で博士号を取得することが必要であり、かつ監査基準の設定その他の監査制度の整備改善に関する事務又は業務に従事した経験を有していることが必要になるため、実際には無試験で公認会計士になることは非常に困難です。
税理士試験の免除制度との比較
会計系のもう一つの資格である税理士試験でも、一定の要件を満たす者については、試験科目の免除が行われています。
税理士試験における免除は、以下のものに対して行われます。
【税理士試験における免除要件】
- 弁護士の資格を有する者
- 公認会計士の資格を有する者
- 平成14年3月までに大学院に進学した者
- 平成14年4月以降に大学院に進学した者で、会計系あるいは税法系の修士論文を執筆し学位を得た上で、それぞれの科目に1科目以上合格した者
- 平成14年4月以降に大学院に進学した者で、会計系あるいは税法系の博士論文を執筆し学位を得た者
- 10年又は15年以上税務署に勤務した国税従事者
- 23年又は28年以上税務署に勤務し、指定研修を修了した国税従事者
(「税理士試験受験案内」より)
かつては会計系と法律学系の二つの修士学位を得ることで、無試験で税理士資格を取得できました。
しかしながら、無試験で資格が与えられることに対しての批判も多かったことから、平成13年に税理士法が改正され、現在では、無試験で税理士になるためには、博士学位が必要とされるようになり、ハードルが上がっています。
また税理士試験では、一定の要件を満たした国税従事者について免除が認められている点に特徴があります。
かつては国税OBが退官後に税理士となり、税務署から顧客の斡旋を受けることができたため、多くのOBが退官後に税理士になっていました。しかしながら近年はこのことが問題となり、OBへの顧客斡旋が禁止されたため、うまみがなくなった国税OBの税理士は減少しています。
学位取得者や実務家にも免除が認められている点は、公認会計士試験における免除と似ていますが、学位は博士に限定されている点や、論文式試験においては一部免除しか認められていない点は、公認会計士試験の方が厳格な制度になっています。
まとめ
公認会計士試験において、免除制度が常に受験者に有利に働くとは限りません。
免除制度を利用することによって得られる時間と利用することによって失う得点の底上げ効果を比較衡量して、免除制度を利用するかどうか決定する必要があります。
合格率が高止まりしている今は、公認会計士になるチャンスです。
うまく免除制度を利用して、最短ルートで公認会計士になるようにしてください。
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